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レポート

情報開示がもたらす利益(2025年)

急速に変化する世界におけるビジネスのレジリエンスの評価

Disclosure Dividend 2025

環境リスクは金融リスクであり、そのコストは急速に増大しています。環境リスクを無視した場合の経済的コストは、2050年までに38兆米ドルに達すると予想されています。これは、世界のGDPの3分の1以上に相当します。

   

それが平均的なビジネスにとって意味することは?

端的に言うと、組織の利益です。環境被害は、財務業績に影響します。例えば、EUの農業セクターは異常気象のために既に毎年280億ユーロの損失を被っています環境の危機が深刻化するにつれ、その関連コストが増大します。

環境リスクに積極的に取り組むことで、よりレジリエントな経済が生まれ、企業のイノベーションおよび投資の能力が向上します。新しい市場、製品、サービスが、不確実性の時代においてビジネスを成長させることができます。

現在および将来において、差し迫った環境課題に対するレジリエンスを構築することは3つの意味を持ちます。つまり、リスクの影響度に関する認識を高める、リスクに対処する、そして機会を捉えることです。

本レポートでは、世界の時価総額の3分の2に相当する企業がCDPを通じて開示したデータに基づくインサイトを提供します[1]また、これらのインサイトから、急速に変化する世界において、企業はどのようにレジリエンスを築き、経済的優位性を引き出すことができるのかを探ります。

情報開示がもたらす利益とは?

情報開示がもたらす利益とは、企業が自社の環境リスク、インパクト、機会について情報を開示し、それらに基づいて行動することにより得られるリターンを指します。この利益を得るには、資本へのアクセス、ビジネスのレジリエンス、コンプライアンスの3つのシナリオがあります。

財務的または戦略的な利益が、それまでの環境リーダーシップへの取り組みに対するリターンとしてもたらされます。情報開示への取り組みにより、企業はリスクを特定し、効率的に対処し、レジリアントなビジネスモデルを構築することができるようになります。

しかし、情報開示は単なるリスク管理に留まらず、企業を成長に導きます。情報開示による利益は継続的にもたらされ、よりよい意思決定を可能にし、投資を呼び込みます。さらに、環境規制が急速に変化する中で、企業がこれらの規制に備えながら、新たな収益源を特定するために役立ちます。

      

すぐに利用できるインサイト

ビジネスに伴うリスク

グローバル企業は、環境リスクによりどのようにビジネスのやり方に混乱が生じるかを既に認識しています。

   

これらの脆弱性にはすべて代償が伴い、グローバルなサプライチェーン全体で企業と消費者の両方がそれを支払うことになります。テクノロジー産業において水使用が非常に重要な理由について、以下のCDPのビデオをご覧ください。

レジリエンスに向けた最初の一歩は認識することであり、企業にとってもそれが明確になり始めています。

大企業の90%以上は、環境課題への依存、インパクト、リスク、機会を特定し評価するためのプロセスを既に整備しているか、今後2年間に導入する計画があります。

認識することが、リスクの特定と潜在的な財務面でのインパクトの理解につながるのです。

67%

中小企業(SME)を含む企業の67%が、実質的な財務的影響をもたらす環境リスクを特定しています。

28%

28%の開示企業が、政策を最大のリスクとして特定し、これに急性の物理的リスク(19%)、慢性の物理的リスク(14%)が続きます。

これらのリスクは、あらゆる種類の課題を網羅します。政策リスクは、カーボンプライシングの変更、環境基準の強化、国内法の変更などを含みます。急性の物理的リスクには洪水、森林火災、干ばつなど、慢性の物理的リスクには海水面の上昇、水質の悪化、土地利用の変更などが含まれます。

これらのリスクに対処することは、ビジネスとして理にかなっています。短期的な財務的影響が何兆米ドルにも達することを考慮すると、リスクに対処するコストは相対的に非常に低いといえます。

ケーススタディ:Version 1(バージョン1)

グローバルなデジタルトランスフォーメーションプロバイダーであるVersion 1が気候レジリエンスとサステナビリティを事業戦略に組み込むにあたり、CDPの枠組みがどのように役立ったかをご覧ください。

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メリットの規模

リスク認識を高め、リスクを緩和するために対処した企業のメリットは、その結果として獲得する新たな商業的機会から得られます。

グリーン経済には重要な機会が存在するにもかかわらず、半数以上の企業は、低炭素または水への影響が低い製品やサービスを提供していません。

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ケーススタディ:Green Century(グリーンセンチュリー)

北米の投資信託会社であるグリーンセンチュリーがどのようにCDP質問書に回答した企業のフォレスト関連データを活用しているかをご覧ください。

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サプライチェーン全体を見渡す

企業の環境へのインパクトの大部分はサプライチェーンに由来し、企業の報告した排出量は、平均して75%はそのサプライヤーが排出源となっています。

大量の水を必要とする産業は、急性の水不足に直面している国から材料を調達する場合が多くあります。例えば、EUの製品・サービスのライフサイクル全体で必要な水の需要量の40%は、欧州外で使用されています。

そのため、サプライヤーとのエンゲージメントが、ビジネスのレジリエンスにとって不可欠な要素になります。自社のバリューチェーンがどのように構築されているかを把握し、サステナブルな活動を奨励することにより、大きな影響が発生する可能性を軽減することができます。

   

しかし、これは企業ができることのほんの一部にすぎません。

CDPデータは、行動変容を促す最も効果的な方法の1つは、経済的なインセンティブであると示しています。その一方で、企業の11%しか自社のサプライヤーに環境パフォーマンスの改善に対する優遇措置を提供していません。

CDPの調査によると、経済的なインセンティブを受けているサプライヤーは、トレーニングのみを提供されたサプライヤーと比較して、排出量を削減する可能性が52%高いという結果が出ています。

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ケーススタディ:Lenovo(レノボ)

グローバルなテクノロジー企業のLenovoがサプライヤーとのエンゲージメントから得るメリットをご覧ください。

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レジリエンスを高めるために必要な重要なツールが十分に活用されていません。その詳細は次の通りです。

21%の開示組織が、自社の環境関連データに対してシナリオ分析を実施しなかったか、今後2年間に実施する予定がないと回答しています。

環境に関するシナリオ分析を行った組織のうち、63%が少なくとも1つの高排出シナリオ(3℃以上の気温上昇を想定)を使用して組織全体の物理的リスクの評価を行っていますが、その他の組織の分析には、重要な前提となる環境関連情報の一部が不足しています。

19%の企業のみが環境の外部性に対するインターナルプライシング設定を適用しており、その大多数が炭素価格です。

最も多く採用されているインターナルカーボンプライシング設定の種類は、引き続き、企業内でのシャドープライシングです。報告された価格のレベルは、インターナルカーボンプライシング設定の種類により大きく異なりますが、その約50%は、9米ドルから124米ドル(25~75パーセンタイル)の範囲内でした。

大企業の43%が気候移行計画を整備し、その大多数が1.5℃目標に整合していると報告しています。他方、中小企業(SME)の15%のみが移行計画を備え、1.5℃目標に整合しているのはその半数程度です。

自然に関する移行計画の普及については、移行計画を持つ大企業の約半数が、気候変動以外の環境課題(ウォーター(66%)、生物多様性(45%)、プラスチック(38%))を自社の計画で検討していることから、今後に期待を持つことができます。

上記で簡単に説明したツールは、情報開示がもたらす利益を企業各社が実現し、ビジネスに有益なインテリジェントな情報に基づく意思決定を下すために不可欠なものです。


      

マーケットフォーカス

環境の危機はグローバルなものであっても、対応は国や地域によって異なります。ビジネスが環境危機に対応する方法は、多くの場合、隣接する国であっても歴然と異なります。

気候関連の投資機会を最も多く特定しているのは日本の企業で(企業あたり7,300万米ドル)、中国企業(980万米ドル)を大きく上回ります。

EUでは、企業の財務的リスクと機会がほぼ同じ(5,900万米ドルと5,600万米ドル)評価となりました。

一方で、米国では、平均的な企業の潜在的な機会は約1,500万米ドルでした。米国と隣接するカナダは7,100万米ドル相当の機会を特定しており、2か国間でビジネスおよび政治的な文化に潜在的な違いがあることを示しています。

ケーススタディ:Grupo Boticário(ボチカリオ・グループ)のベストプラクティス

Grupo Boticárioは、ラテンアメリカ最大の化粧品企業グループであり、サステナビリティ関連課題について様々な方法でサプライヤーとのエンゲージメントを図っています。

Grupo BoticárioはCDPサプライチェーンプログラムのメンバーでもあり、毎年、重要な排出量データをサプライヤーから収集しています。このデータを活用して、企業ニーズに合わせたエンゲージメント戦略を策定する方法をよりよく理解し、最終的には気候関連目標を達成するために役立てています。

成功のヒントは以下の通りです。

   

サプライヤーの戦略的選定

市場価値、コアバリューとの整合性、サービスの構成、ビジネス価値の拡大の可能性など、複数の基準に基づいてサプライヤーを選出する。

   

専任の調達チームの確立

サプライヤーの成長および教育を育成するための専任チームを作る。これにより、取り組みに関して十分な資金が得られるだけでなく、組織内での優先順位が高くなります。

   

ニーズに沿ったアプローチ

サプライヤーのニーズに合わせたエンゲージメントを行う。このアプローチでは、異なる業界に属するサプライヤーが直面する固有の課題に効率的に対処することができます。成熟度の低いサプライヤーの場合、緊密に連携し、改善のためのカスタム行動計画を作成します。

   

取り組みに対する評価と報奨

サプライヤーのサステナビリティへの対応を評価し奨励するために報奨制度を利用する。好業績のサプライヤーは、評価を得るだけでなくビジネス機会が向上するため、継続的な改善およびイノベーションの文化が醸成されます。

レジリエンスへの道のり

本レポートのインサイトは、情報開示は透明性を示すだけではなく、経済的に必要不可欠なものになりつつあるという変化を明らかにしています。環境アクションに関する財務事例が強化されるにつれ、自社の開示データに基づき対策を取る企業は、測定可能な利益を得る可能性が高くなります。このような効果は、単に認識するだけでなく、インサイトをインパクトへと転換することにより引き出すことができるのです。

グローバル企業は、それに気づき始めていますが、環境リスクによる財務的なインパクトの増大からビジネスを守るには長い道のりが待ち受けています。これまでのところ、企業各社のアクションは、それにかかるコストの重要性が反映されず、アクションによる投資機会の規模も考慮されていません。

多くの企業は、できることと達成しなければならないことに関して全体像を把握することなく、環境課題にアプローチしています。このように包括的な視点が欠けていると、情報開示がもたらす利益を十分に達成することは困難になります。認識、アクション、成長の要素を組み込んだ、より広い視点から課題に対処するアプローチが求められます。

    

ビジネスのレジリエンスに関するCDPの主要な推奨事項は次の通りです。

  • バリューチェーンに渡り、環境に関する依存とインパクトを管理するプロセスを整備する

  • リスクと機会の特定とその財務的な関連性などを把握する

  • 自社のアクションに関するサプライヤーとのエンゲージメント

  • 特定された環境課題に基づき、戦略を策定し、戦略には移行計画の主要な側面を含める

  • その結果として、新たな取り組みとグリーン製品を創出し、利益を得る

ビジネスのレジリエンスへの道のりを開始する

2025年はCDPを通じて環境データを開示し、情報開示がもたらす利益を獲得しましょう。

情報開示に取り組む

脚注

  1. この分析は、2024年の開示サイクルにおいて、CDPを通じて環境課題に関する回答データを提出した24,800社以上の企業のサブセットに由来するデータを利用しています。

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